商標法(判例)

【東京地判平成7年02月22日】UnderTheSun事件

 以上によると、三六条が右二五条の登録商標の使用権を侵害する行為、すなわち指定商品について登録商標を使用する行為の差止めを規定し、三七条が指定商品についての登録商標に類似する商標の使用又は指定商品に類似する商品についての登録商標若しくはこれに類似する商標の使用について、商標権を侵害するものとみなす旨規定しているのは、商標権者以外の第三者が、登録商標と同一又は類似の商標を、指定商品又はこれに類似する商品に使用することにより、その商品の出所を表示して自他商品を識別する標識としての機能を果たし、もって、商品の出所の混同を生ずるおそれが生じ、商標権者の登録商標の本質的機能の発揮が妨げられるという結果を生じることによるものであるというべきである。また、二六条一項二号は、登録要件を定める三条一項一号及び三号の規定に沿って、「当該指定商品若しくはこれに類似する商品の普通名称、産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、数量、形状、価格若しくは生産若しくは使用の方法若しくは時期・・・を普通に用いられる方法で表示する商標」について商標権の効力が及ばない旨を規定しているが、右規定は、第三者が登録商標と同一又は類似の商標を使用しても、その商標が商品に表示されている態様からみて、その商標が、商品の普通名称や産地、品質等を表示するものにすぎず、商標の本質的な機能である出所表示機能、自他商品識別機能を果たしていないと認められる商標について、商標権の禁止権の効力が及ばない旨を定めたものであると解すべきである。

 したがって、以上の三六条、三七条及び二六条の法意に照せば、第三者が登録商標と同一又は類似の商標を指定商品又はこれに類似する商品について使用している場合でも、それが、その商品の出所を表示し自他商品を識別する標識としての機能を果たしていない態様で使用されていると認められる場合には、登録商標の本質的機能は何ら妨げられていないのであるから、商標権を侵害するものとは認めることはできない。すなわち、二六条一項二号の「当該指定商品若しくはこれに類似する商品の普通名称、産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、数量、形状、価格若しくは生産若しくは使用の方法若しくは時期を普通に用いられる方法で表示する商標」に該当しない商標についても、出所表示機能、自他商品識別機能を有しない態様で使用されていると認められる商標については、右に述べた理由により、商標権の禁止権の効力を及ぼすのは相当ではない

【大阪地判平成14年12月12日】巨峰(第二)事件

 エ 以上によれば、一般消費者、ぶどう生産者、青果卸売業者などの需要者において、「巨峰」という語は、特定の業者の商品にのみ用いられるべき商標であるとは認識されておらず、ぶどうの一品種である本件品種のぶどうを表す一般的な名称として認識されているものと認められる。したがって、「巨峰」という語は、ぶどうの一品種である本件品種のぶどうを表す普通名称(商標法26条1項2号)に当たると認めるのが相当である

 3 争点3(「普通に用いられる方法」に当たるか)について被告標章1は、漢字の「巨峰」の文字を毛筆体によって横書きに記載したもの、被告標章2は、漢字の「巨峰」の文字をゴシック体で横書きに記載したものであり、いずれも、その文字の形態や表記の態様に顕著な特徴があるとはいえず、本件品種のぶどうを表す「巨峰」という普通名称を、「普通に用いられる方法」で表示したものと認めるのが相当である

【福岡地判昭和46年09月17日】巨峰(第一)事件

  一般に包装用容器に標章を表示してその在中商品ではなく、包装用容器そのものの出所を示す場合には、その側面又は底面、表面であれば隅の方に小さく表示するなど、内容物の表示と混同されるおそれのないような形で表わすのが通例であつて、包装用容器の見易い位置に見易い方法で表わされている標章は、内容物たる商品の商品名もしくはその商品の出所を示す標章と見られるもので、包装用容器そのものの出所を表わすものとは受けとられない、というのが今日の取引上の経験則というべきある。

【最判平成12年02月24日】リノ事件

 本件CPUは、主基板に装着された後も、元の外観及び形態を保っており、それに付された本件商標は、ケースを通してもこれを視認することができた。リノは、中間の販売業者を通じてパチンコ店に販売され、その際、本体と主基板が別々に配送された後、パチンコ店で本体内の最上部に主基板が差し込まれるなどして組み立てられ設置されていた。主基板は、リノの本体とは別にパチンコ店に備え置く補修用部品としても販売され、リノの主基板が故障した場合にこれと交換されることもあった。主基板に装着された本件CPU及びそれに付された本件商標は、リノの外観上は視認することができないが、右のようなリノの流通過程において、中間の販売業者やパチンコ店関係者に視認される可能性があった

 【要旨】以上の事実関係の下では、本件商標は、本件CPUが主基板に装着され、その主基板がリノに取り付けられた後であっても、なお本件CPUについての商品識別機能を保持していたものと認められるから、前記起訴に係る被告人らの各行為について、商標法(前記改正前のもの)七八条の商標権侵害の罪が成立するとした原判決の判断は、正当である。

【最判平成17年07月14日】eAccess事件

 拒絶審決を受けた商標登録出願人は,審決において拒絶理由があるとされた指定商品等以外の指定商品等について,商標法10条1項の規定に基づいて新たな商標登録出願をすれば,その商標登録出願は,もとの商標登録出願の時にしたものとみなされることになり,出願した指定商品等の一部について拒絶理由があるために全体が拒絶されるという不利益を免れることができる。したがって,拒絶審決に対する訴えが裁判所に係属している場合に,商標法10条1項の規定に基づいて新たな商標登録出願がされ,もとの商標登録出願について願書から指定商品等を削除する補正がされたときに,その補正の効果が商標登録出願の時にさかのぼって生ずることを認めなくとも,商標登録出願人の利益が害されることはなく,商標法10条の規定の趣旨に反することはない

 以上によれば,【要旨】拒絶審決に対する訴えが裁判所に係属している場合に,商標法10条1項の規定に基づいて新たな商標登録出願がされ,もとの商標登録出願について願書から指定商品等を削除する補正がされたときには,その補正の効果が商標登録出願の時にさかのぼって生ずることはなく,審決が結果的に指定商品等に関する判断を誤ったことにはならないものというべきである。これと異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があり,論旨は理由がある。

【最判平成12年07月11日】レールデュタン事件

1 【要旨1】商標法四条一項一五号にいう「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」には、当該商標をその指定商品又は指定役務(以下「指定商品等」という。)に使用したときに、当該商品等が他人の商品又は役務(以下「商品等」という。)に係るものであると誤信されるおそれがある商標のみならず当該商品等が右他人との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品等であると誤信されるおそれ(以下「広義の混同を生ずるおそれ」という。)がある商標を含むものと解するのが相当である。けだし、同号の規定は、周知表示又は著名表示へのただ乗り(いわゆるフリーライド)及び当該表示の希釈化(いわゆるダイリューション)を防止し、商標の自他識別機能を保護することによって、商標を使用する者の業務上の信用の維持を図り、需要者の利益を保護することを目的とするものであるところ、その趣旨からすれば、企業経営の多角化、同一の表示による商品化事業を通して結束する企業グループの形成、有名ブランドの成立等、企業や市場の変化に応じて、周知又は著名な商品等の表示を使用する者の正当な利益を保護するためには、広義の混同を生ずるおそれがある商標をも商標登録を受けることができないものとすべきであるからである。

 そして、【要旨2】「混同を生ずるおそれ」の有無は、当該商標と他人の表示との類似性の程度、他人の表示の周知著名性及び独創性の程度や、当該商標の指定商品等と他人の業務に係る商品等との間の性質、用途又は目的における関連性の程度並びに商品等の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし、当該商標の指定商品等の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として、総合的に判断されるべきである。

【最判平成20年09月08日】つつみのおひなっこや事件

(1) 法4条1項11号に係る商標の類否は,同一又は類似の商品又は役務に使用された商標が,その外観,観念,称呼等によって取引者,需要者に与える印象,記憶,連想等を総合して,その商品又は役務に係る取引の実情を踏まえつつ全体的に考察すべきものであり(最高裁昭和39年(行ツ)第110号同43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁参照),複数の構成部分を組み合わせた結合商標と解されるものについて,商標の構成部分の一部を抽出し,この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは,その部分が取引者,需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や,それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認められる場合などを除き,許されないというべきである(最高裁昭和37年(オ)第953号同38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁,最高裁平成3年(行ツ)第103号同5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5009頁参照)。

【東京高判平成5年07月22日】ゼルダ事件

1 商標法三二条一項所定の先使用権の制度の趣旨は、職別性を備えるに至った商標の先使用者による使用状態の保護という点にあり、しかも、その適用は、使用に係る商標が登録商標出願前に使用していたと同一の構成であり、かつこれが使用される商品も同一である場合に限られるのに対し、登録商標権者又は専用使用権者の指定商品全般についての独占的使用権は右の限度で制限されるにすぎない。そして、両商標の併存状態を認めることにより、登録商標権者、その専用使用権者の受ける不利益とこれを認めないことによる先使用者の不利益を対比すれば、後者の場合にあっては、先使用者は全く商標を使用することを得ないのであるから、後者の不利益が前者に比し大きいものと推認される。かような事実に鑑みれば、同項所定の周知性、すなわち「需要者間に広く認識され」との要件は、同一文言により登録障害事由として規定されている同法四条一項一〇号と同一に解釈する必要はなく、その要件は右の登録障害事由に比し緩やかに解し、取引の実情に応じ、具体的に判断するのが相当というべきである。

【東京高判平成13年11月20日】iOffice2000事件

 しかし,商標法4条1項19号において,不正の目的とは,「不正の利益を得る目的,他人に損害を加える目的その他の不正の目的をいう」と規定されており,具体的には,外国では周知であるものの我が国では知られていない他人の商標と同一又は類似の商標を,その外国の権利者に高額で買い取らせる目的,その権利者の国内参入を阻止する,若しくはその権利者に代理店契約締結を強制する目的,あるいは,日本国内で全国的に知られている他人の商標と同一又は類似の商標について,出所表示機能を希釈化させたり,その名声を毀損させたりする目的が,審査基準に例として挙げられている。

【最判平成16年06月08日】カムホート事件

 8号は,その括弧書以外の部分(以下,便宜「8号本文」という。)に列挙された他人の肖像又は他人の氏名,名称,その著名な略称等を含む商標は,括弧書にいう当該他人の承諾を得ているものを除き,商標登録を受けることができないとする規定である。その趣旨は,肖像,氏名等に関する他人の人格的利益を保護することにあると解される。したがって,8号本文に該当する商標につき商標登録を受けようとする者は,他人の人格的利益を害することがないよう,自らの責任において当該他人の承諾を確保しておくべきものである。

 また,3項は,8号に該当する商標であっても,商標登録出願の時(以下「出願時」という。)に8号に該当しないものについては,8号の規定を適用しない旨を定めている。これは,商標法4条1項各号所定の商標登録を受けることができない商標に当たるかどうかを判断する基準時が,原則として商標登録査定又は拒絶査定の時(拒絶査定に対する審判が請求された場合には,これに対する審決の時。以下「査定時」と総称する。)であることを前提として,出願時には,他人の肖像又は他人の氏名,名称,その著名な略称等を含む商標に当たらず,8号本文に該当しなかった商標につき,その後,査定時までの間に,出願された商標と同一名称の他人が現れたり,他人の氏名の略称が著名となったりするなどの出願人の関与し得ない客観的事情の変化が生じたため,その商標が8号本文に該当することとなった場合に,当該出願人が商標登録を受けられないとするのは相当ではないことから,このような場合には商標登録を認めるものとする趣旨の規定であると解される。

 8号及び3項の上記趣旨にかんがみると,3項にいう出願時に8号に該当しない商標とは,出願時に8号本文に該当しない商標をいうと解すべきものであって,出願時において8号本文に該当するが8号括弧書の承諾があることにより8号に該当しないとされる商標については,3項の規定の適用はないというべきである。

 したがって,【要旨】出願時に8号本文に該当する商標について商標登録を受けるためには,査定時において8号括弧書の承諾があることを要するのであり,出願時に上記承諾があったとしても,査定時にこれを欠くときは,商標登録を受けることができないと解するのが相当である。

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