【秋田地判昭和47年02月07日】一機関

二 被告は、本件蹄鉄をAの機関として、同人の指揮監督のもとで製造しているにすぎず、その製造行為は同人の実用新案権の正当な実施の範囲に属する旨主張するので、この点につき検討する。

 成立に争いのない甲第四号証、第五号証の一の一ないし四、同号証の二の一ないし九、同号証の三の一ないし一一、同号証の四の一ないし一〇、同号証の五の一ないし一三、乙第一六号証、証人Aの証言により真正に成立したものと認める乙第二ないし第一五号証、証人Aの証言、原告および被告代表者Bの各本人尋問の結果によれば、次の事実が認められる。すなわち、被告は、馬具等を中心とする機械工具の製造販売を業とする会社であるが、昭和四二年初め頃、Aから本件実用新案権に係る本件蹄鉄の製造の依頼を受け、以後、本件蹄鉄を製造し、Aの指示に従つて、専ら同人の経営する有限会社日本マルテイプロダクツ商会に納入しており、他に右製品を販売したことは全くない。また、右製造に当つては、A自身が蹄鉄の金型の原型を作出し、蹄鉄の釘穴、溝等の構造に関する詳細な技術指導、材料の品質、製造機械の性能等に関する具体的な指示をし、製品につき綿密な検査もしており、製造量および製品の単価も終局的には同人が決定し、被告はその範囲内において製造しているにすぎない。そして、製品の包装には、Aの指示により「マルテイプロダクツ」の商標が記され、被告の製造であることも示すようなものは、製品およびその包装にも全く記されていない。

 右認定事実によれば、被告とAとの関係は、請負契約的要素を含むいわゆる製作物供給契約ということができ、被告の本件蹄鉄製造は、Aのかなり綿密な指示のもとに行なわれてはいるが、被告が製造のための機械設備等を所有し、自己の計算において材料を調達し、利潤を上げている以上、単にAのために、その機関として、工賃を得て製造しているにすぎないものとは認め難く、被告が、自己のため独立の事業として製造しているものであると認められる。したがつて、被告は、Aから本件実用新案権の通常実施権の許諾を受けて、自己のため独立の事業としてその実施をしているものといわなければならず、右実施権の許諾につき、本件実用新案権の共有者である原告の同意があることについては、被告の主張立証がないので、被告の本件蹄鉄製造は、原告の実用新案権を侵害するものといわなければならない。また、前記証人Aの証言および被告代表者本人尋問の結果によれば、被告代表者Bは、Aとの間の前記契約を締結する当時、同人から原告が本件実用新案権を共有している事実を知らされていたことが明らかであるから、特段の事情の認められない本件においては右侵害について故意があるものというべきである。