【最判昭和55年05月01日】訂正審判に関する事件

 ところで、実用新案登録を受けることができる考案は、一個のまとまつた技術思想であつて、実用新案法三九条の規定に基づき実用新案権者が請求人となつてする訂正審判の請求は、実用新案登録出願の願書に添付した明細書又は図面(以下「原明細書等」という。)の記載を訂正審判請求書添付の訂正した明細書又は図面(以下「訂正明細書等」という。)の記載のとおりに訂正することについての審判を求めるものにほかならないから、右訂正が誤記の訂正のような形式的なものであるときは事の性質上別として、本件のように実用新案登録請求の範囲に実質的影響を及ぼすものであるときには、訂正明細書等の記載がたまたま原明細書等の記載を複数箇所にわたつて訂正するものであるとしても、これを一体不可分の一個の訂正事項として訂正審判の請求をしているものと解すべく、これを形式的にみて請求人において右複数箇所の訂正を各訂正箇所ごとの独立した複数の訂正事項として訂正審判の請求をしているものであると解するのは相当でない。それ故、このような訂正審判の請求に対しては、請求人において訂正審判請求書の補正をしたうえ右複数の訂正箇所のうちの一部の箇所についての訂正を求める趣旨を特に明示したときは格別、これがされていない限り、複数の訂正箇所の全部につき一体として訂正を許すか許さないかの審決をすることができるだけであり、たとえ客観的には複数の訂正箇所のうちの一部が他の部分と技術的にみて一体不可分の関係にはないと認められ、かつ、右の一部の訂正を許すことが請求人にとつて実益のないことではないときであつても、その箇所についてのみ訂正を許す審決をすることはできないと解するのが相当である。