【最判平成14年09月17日】エレキギター事件

 (1) 商標法に基づく審判については,商標法56条において特許法152条,153条が準用されており,職権による審理の原則が採られている。特許法153条1項によれば,審判においては当事者の申し立てない理由についても審理することができる。これは,第三者に対する差止め,損害賠償等の請求の根拠となる特許権や商標権の性質上,特許又は商標登録が有効に存続するかどうかは,当該審判の当事者だけでなく,広く一般公衆の利害に関係するものであって,本来無効とされ又は取り消されるべき特許又は商標登録が当事者による主張が不十分なものであるために維持されるとしたのでは第三者の利益を害することになることから,当事者が申し立てない理由についても職権により審理することができるとしたものである。したがって,審判の請求人が申し立てなかった理由についての審理がされたとしても,そのことによって審決が直ちに違法になるものではない。 他方,特許法153条2項は,審判において当事者が申し立てない理由について審理したときは,審判長は,その審理の結果を当事者に通知し,相当の期間を指定して,意見を申し立てる機会を与えなければならないと規定している。これは,当事者の知らない間に不利な資料が集められて,何ら弁明の機会を与えられないうちに心証が形成されるという不利益から当事者を救済するための手続を定めたものである。殊に,特許権者又は商標権者にとっては,特許又は商標登録が無効とされ又は取り消されたときにはその権利を失うという重大な不利益を受けることになるから,当事者の申し立てない理由について審理されたときには,これに対して反論する機会が保障されなければならない。しかし,当事者の申し立てない理由を基礎付ける事実関係が当事者の申し立てた理由に関するものと主要な部分において共通し,しかも,職権により審理された理由が当事者の関与した審判の手続に現れていて,これに対する反論の機会が実質的に与えられていたと評価し得るときなど,職権による審理がされても当事者にとって不意打ちにならないと認められる事情のあるときは,意見申立ての機会を与えなくても当事者に実質的な不利益は生じないということができる。したがって,

 【要旨】審判において特許法153条2項所定の手続を欠くという瑕疵がある場合であっても,当事者の申し立てない理由について審理することが当事者にとって不意打ちにならないと認められる事情のあるときは,上記瑕疵は審決を取り消すべき違法には当たらないと解するのが相当である。