【東京地判平成16年10月29日】ラップフィルム事件

 すなわち,意匠法における「意匠」とは,いわゆる部分意匠として登録されるような場合を除けば,物品全体の形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合であって,視覚を通じて美感を起こさせるものをいうのであるから(意匠法2条1項参照),意匠とこれに基づいて表現された物品とは不可分の関係に立つというべきである。したがって,登録意匠と被告物品に係る意匠とが類似しているというためには,それぞれの「形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合」が単に類似するというだけでは足りないのであって,登録意匠に係る物品と被告物品とが類似していることも必要である。そして,この場合に,対比の対象とされる当該物品は,流通過程に置かれ,取引の対象とされる独立した物品を指すものというべきであって,単に,当該物品の一部を構成するにすぎない部分を指すと解すべきではない。 

 本件意匠に係る物品は「ラップフィルム摘み具」であるのに対し,原告が製造販売している物品は原告包装用箱を使用した原告製品であるから,両者は用途,機能等を異にし,物品として同一性又は類似性がない。

 被告の主張に係る前記「つまめるフラップと横長矩形部で構成された部品」は,被告において,原告包装用箱の特定の部分(フラップ部分と包装用箱の前壁裏側部分)のみを,恣意的に,ハサミで切り離して,分離させたものにすぎないのであって(検甲1ないし3,乙17の1~3),それ自体が経済的に独立した商品として流通過程に置かれた物品ではないことは明らかである。したがって,上記「つまめるフラップと横長矩形部で構成された部品」をもって,本件意匠に係る物品である「ラップフィルム摘み具」に当たるとすることはできないから,両者の意匠が類似するかどうかを検討するまでもなく,被告の上記主張は理由がない。