PBPクレームって何?

2014年11月11日 19:42

 旬を迎えた「牡蠣(かき)」の製法に係る特許権の侵害事件が争われています。原告の「卜部産業」が所有する特許権を調べてみました。

【発明の名称】二枚貝の剥身を蒸してなる蒸貝の生産方法
【特許番号】特許第5364214号(P5364214)
【登録日】平成25年9月13日(2013.9.13)


【請求項1】
牡蠣を蒸してなる蒸牡蠣の生産方法であって、100℃以上の温度かつ3kgf/cm2G以上の圧力の高圧蒸気を用いて水を沸騰させることによって、100℃以上105℃以下の温度かつ0kgf/cm2G以上0.5kgf/cm2G以下の圧力の減圧蒸気を得る工程と、液体中に浸されていない状態の前記牡蠣に対して前記牡蠣1kgあたり蒸気量0.1kg/h以上で前記減圧蒸気を噴射することによって前記牡蠣を蒸すことによって、前記牡蠣の中心温度が85℃以上である状態を1分間以上維持する工程と、を含む、生産方法。


 まず、製法特許(請求項1)の特許権の効力は、当該製法の使用および当該製法により生産した物の使用、譲渡等に及びます(2条3項2号・3号)。

第2条3項 この法律で発明について「実施」とは、次に掲げる行為をいう。
二  方法の発明にあつては、その方法の使用をする行為
三  物を生産する方法の発明にあつては、前号に掲げるもののほか、その方法により生産した物の使用、譲渡等、輸出若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為


 生産方法のクレームの場合、仮に、同一の「物」を生産していたとしても、その製法が異なれば、特許権の効力は及びません。

 しかし、記事では『熱を加えたり冷凍したりしたカキは長年、生に比べて身が硬く味が劣るといわれていたが「常識を覆した味」と評判になり市場規模が拡大』と報じています。この点からすると、「その物と同一の物」の要件が課されているので立証は容易ではないと思いますが、「生産方法の推定(104条)」規定が働く余地があります。この場合、被告側に「推定」を覆すための立証責任が転換されます。

(生産方法の推定)
第百四条  物を生産する方法の発明について特許がされている場合において、その物が特許出願前に日本国内において公然知られた物でないときは、その物と同一の物は、その方法により生産したものと推定する。



 次に、前記特許には、次の請求項も含まれます。これが、PBP(プロダクト・バイ・プロセス)クレームです。「物を生産方法で規定」したクレーム表現です。

【請求項6】
請求項1~5いずれかに記載の生産方法を用いて生産されてなる蒸牡蠣。


 PBPクレームの技術的範囲を争う事件は、これまで複数ありますが、弁理士試験の論述としては、大合議判決をベースとした記載が良いでしょう。判決では、まず、PBPクレームを「不真正」か「真正」かに分けています。「不真正」とは、「構造又は特性により直接的に特定することが出願時において不可能又は困難であるとの事情が存在しない場合」としています。そして、「不真正」の場合、「その技術的範囲はクレームに記載された製造方法によって製造された物に限定される」と判事しています。

平成22年(ネ)第10043号 特許権侵害差止請求控訴事件 

「常識を覆した味」を持つ「未知の加工牡蠣」の構造又は特性により直接特定することが出願時において困難であるとすれば「真正」PBPクレームとして認められる可能性があると思います。

 今後の大阪地裁の判決が楽しみですね。

情報ソース
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20141107-00000133-san-soci
https://www.ip.courts.go.jp/vcms_lf/10043.pdf