附帯請求の対象「物」の相違

2019年01月27日 17:32


 今回は、差止請求権の附帯請求(特許法で言えば100条2項)について、4法比較で理解を深めましょう。

 まず、条文の確認からです。

【特許法】
第百条
2  特許権者又は専用実施権者は、前項の規定による請求をするに際し、侵害の行為を組成した物(物を生産する方法の特許発明にあつては、侵害の行為により生じた物を含む。第百二条第一項において同じ。)の廃棄、侵害の行為に供した設備の除却その他の侵害の予防に必要な行為を請求することができる。

【実用新案法】
第二十七条
2  実用新案権者又は専用実施権者は、前項の規定による請求をするに際し、侵害の行為を組成した物(プログラム等(特許法第二条第四項 に規定するプログラム等をいう。次条において同じ。)を含む。以下同じ。)の廃棄、侵害の行為に供した設備の除却その他の侵害の予防に必要な行為を請求することができる。

【意匠法】
2  意匠権者又は専用実施権者は、前項の規定による請求をするに際し、侵害の行為を組成した物(プログラム等(特許法第二条第四項 に規定するプログラム等をいう。次条において同じ。)を含む。以下同じ。)の廃棄、侵害の行為に供した設備の除却その他の侵害の予防に必要な行為を請求することができる。

【商標法】
2  商標権者又は専用使用権者は、前項の規定による請求をするに際し、侵害の行為を組成した物の廃棄、侵害の行為に供した設備の除却その他の侵害の予防に必要な行為を請求することができる。


 一見すると、「特・実・意は共通で、商標法が異なる」と思われるかも知れませんが、「物」の定義の拡張についての相違に注意が必要です。

 条文を読み込むと、「実・意」が共通で、特許法と商標法が異なっていることがわかります。


 実用新案法と意匠法では、侵害の行為を組成した「物」にプログラム等を含みます。

 それでは、特許法ではプログラムを含まないのか?というと、そうではありません。特許法2条3項で、既に「物」にはプログラムを含むと定義されています。

特許法第二条
3 この法律で発明について「実施」とは、次に掲げる行為をいう。
一 物(プログラム等を含む。以下同じ。)の発明にあつては、その物の生産、使用、譲渡等(譲渡及び貸渡しをいい、その物がプログラム等である場合には、電気通信回線を通じた提供を含む。以下同じ。)、輸出若しくは輸入又は譲渡等の申出(譲渡等のための展示を含む。以下同じ。)をする行為

 さらに、特許法の附帯請求は、実用新案法や意匠法と同様にかっこ書がありますが、そこでは、「物を生産する方法の特許発明にあつては、侵害の行為により生じた物を含む。」として、いわゆる製造方法特許の場合は、当該製造物を含むとして、「侵害の行為を組成した物」を拡張しています。

 整理すると、差止請求の附帯請求の対象となる「侵害の行為を組成した物」には、特・実・意はプログラムを含み、さらに、特許法では、「物を生産する方法の特許発明にあつては、侵害の行為により生じた物」を含むことになります。


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