「新庄まつり」市が商標登録へ 「使えなくなるのを防ぐ」

2014年09月23日 23:06
 文化庁が「山・鉾・屋台行事」の無形文化遺産候補として複数の「お祭り」をユネスコへ提出することを決めたことを受け、候補の一つである新庄市が「新庄まつり」の商標を商標登録出願することになったそうです。
 
 本事案で、弁理士の論文の勉強をしましょう。
 
 まず、商標法も特許法や意匠法と同様に「先願の地位」の確保が重要です。このニュースリリースから、新庄市よりも先に出願する者も居るかも知れません。この場合の出願の帰趨はどうなるのでしょうか?
 
 「冒認」と答えるとアウトです。商標には「冒認」はありません。NHKの大河ドラマのタイトルの発表の翌日に同じ商標での出願が集中するらしいですが、このケースも「冒認」で拒絶されることはありません。短答問題ですが、「公正なくじ(8条4項)」で決着を図ることになります。
 
 それでは、個人が「新庄まつり」を出願した場合、登録になるのでしょうか? 論文の解答としては、該当する拒絶理由として(伝家の宝刀の)4条1項7号を挙げるべきです。判例をベースに「当該商標出願人よりもより密接な関係を有する者等の利益を害し,剽窃的行為である」として4条1項7号の拒絶理由通知を受ける(15条、15条の2)とすべきです。
 
 
 次に、新庄市が出願した場合の拒絶理由を考えてみましょう。新庄市は商標「新庄まつり」、指定商品・役務は「貴金属、事務用品、おもちゃ、食品、イベントなど5分類の計35商品」で考えているようです。
 
 41類の「お祭りを主とする催事・伝統行事及び記念イベントの企画・運営又は開催(類似群コード41F06)」になると思われますので、当該指定役務との関係では、典型的な3条1項3号違反で、拒絶理由の対象となります。一方、指定商品「貴金属、事務用品、おもちゃ、食品(正確な指定商品名は省略)」の拒絶理由は特にありません。
 
 拒絶理由に対する措置ですが、商標は「新庄まつり」と普通名称「まつり」の結合商標ですから、「地域団体商標の商標登録出願への変更(11条3項)」と「3条2項の適用」を検討する必要があります。
 
 地域団体商標ですが、H26改正で主体が拡大されましたが、地方公共団体は主体には成れません。一方、「新庄まつり」の著名性の程度が判りませんが、著名性が認められれば3条2項の適用を受けて、商標登録される可能性があります。文化庁がユネスコへ提案する他の「まつり」には京都祇園や博多祇園が含まれています。これらなら著名性は認められると思いますが、新庄まつりは微妙だと思います。
 
 地域おこし目的での権利取得を目指す出願ですが、「新庄まつり」が登録できなくでも良いのでしょうか?
 
 新庄市は「あくまで『使わせない』のではなく『使えなくなるのを防ぐ』のが目的。商標登録されれば利用規定を設け、申請してもらえば原則、無料で使えるようにしたい」との意向のようです。これって、地域団体商標の要件の一つに類似していると思いませんか? 市民を団構成員と考えるのも無理があるように思いますので、地域おこしの一環として、地域団体商標類似の制度を創設すべきだと思います。
 
情報ソース
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20140923-00000445-yamagata-l06
https://www.bunka.go.jp/bunkazai/shoukai/pdf/unesco_jyoyaku_140313.pdf