補正却下(特53条)の役割
意匠法、商標法では、補正が要旨変更に該当する場合は、補正却下の対象となります。
意匠法
第十七条の二 願書の記載又は願書に添付した図面、写真、ひな形若しくは見本についてした補正がこれらの要旨を変更するものであるときは、審査官は、決定をもつてその補正を却下しなければならない。
商標法
第十六条の二 願書に記載した指定商品若しくは指定役務又は商標登録を受けようとする商標についてした補正がこれらの要旨を変更するものであるときは、審査官は、決定をもつてその補正を却下しなければならない。
補正却下の決定を受けた出願人の措置としては、補正却下不服審判を含め5つあります。
・補正却下不服審判
・補正却下後の新出願
・再補正
・新出願
・放置
それでは、特許法ではどうでしょうか。
特許法では「要旨変更」から「新規事項の追加」という概念に変わり、補正が新規事項の追加に該当する場合は、意匠法と商標法と同様に補正却下の対象となります(特53条)。
(補正の却下)
第五十三条 第十七条の二第一項第一号又は第三号に掲げる場合(同項第一号に掲げる場合にあつては、拒絶の理由の通知と併せて第五十条の二の規定による通知をした場合に限る。)において、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面についてした補正が第十七条の二第三項から第六項までの規定に違反しているものと特許をすべき旨の査定の謄本の送達前に認められたときは、審査官は、決定をもつてその補正を却下しなければならない。
ただし、特許法では審査の迅速化の目的から、補正却下の対象となるのは、いわゆる最後の拒絶理由通知に対する補正が新規事項の追加に該当する場合(等)だけに限られています。
(拒絶理由の通知)
第五十条 審査官は、拒絶をすべき旨の査定をしようとするときは、特許出願人に対し、拒絶の理由を通知し、相当の期間を指定して、意見書を提出する機会を与えなければならない。ただし、第十七条の二第一項第一号又は第三号に掲げる場合(同項第一号に掲げる場合にあつては、拒絶の理由の通知と併せて次条の規定による通知をした場合に限る。)において、第五十三条第一項の規定による却下の決定をするときは、この限りでない。
また、補正却下に対する措置も意匠法、商標法とは異なり、不服申立てのルートが遮断され、補正却下に伴う拒絶査定に対する拒絶査定不服審判の中での不服申立てに限られます。
(補正の却下)
第五十三条
3 第一項の規定による却下の決定に対しては、不服を申し立てることができない。ただし、拒絶査定不服審判を請求した場合における審判においては、この限りでない。
したがって、特許法の論文では「補正却下に対する措置問題」というのは存在しません。
このように補正却下が「表に出る」ことはありませんが、審査の迅速化のために重要な役目を果たしていることの理解が重要です。
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