商標法で論点(判例)が多い条文は?

2018年09月16日 10:11

 前回の流れから、今回は「論点(判例)が多い条文」として商4条1項8号を対象に、審査基準の内容とそのベースとなっている判例について理解を深めましょう。

 まずは、条文の確認からです。


(商標登録を受けることができない商標)
第四条 次に掲げる商標については、前条の規定にかかわらず、商標登録を受けることができない。
八 他人の肖像又は他人の氏名若しくは名称若しくは著名な雅号、芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称を含む商標(その他人の承諾を得ているものを除く。)


 論点が多い条文ですが、審査基準では以下のような解説がされています。


<審査基準:七、第4条第1項第8号(他人の氏名又は名称等)> 

1.「他人」について
 「他人」とは、自己以外の現存する者をいい、自然人(外国人を含む。)、法人のみならず、権利能力なき社団を含む。

2.「略称」について
(1) 法人の「名称」から、株式会社、一般社団法人等の法人の種類を除いた場合には、「略称」に該当する。なお、権利能力なき社団の名称については、法人等の種類を含まないため、「略称」に準じて取り扱うこととする。
(2) 外国人の「氏名」について、ミドルネームを含まない場合には、「略称」に該当する。

3.「著名な」略称等について
 他人の「著名な」雅号、芸名、筆名又はこれら及び他人の氏名、名称の「著名な」略称に該当するか否かの判断にあたっては、人格権保護の見地から、必ずしも、当該商標の指定商品又は指定役務の需要者のみを基準とすることは要しない。

4.「含む」について
 他人の名称等を「含む」商標であるかは、当該部分が他人の名称等として客観的に把握され、当該他人を想起・連想させるものであるか否かにより判断する。
(例) 商標「TOSHIHIKO」から他人の著名な略称「IHI」を想起・連想させない。

5.自己の氏名等に係る商標について
 自己の氏名、名称、雅号、芸名、若しくは筆名又はこれらの略称に係る商標であったとしても、「他人の氏名若しくは名称若しくは著名な雅号、芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称」にも該当する場合には、当該他人の人格的利益を損なうものとして、本号に該当する。

6.「他人の承諾」について
 「他人の承諾」は、査定時においてあることを要する。


 まず、「略称」については、最高裁判決「月の友の会事件」がベースになっています。

<月の友の会事件>
 「株式会社の商号は商標法四条一項八号にいう「他人の名称」に該当し、株式会社の商号から株式会社なる文字を除いた部分は同号にいう「他人の名称の略称」に該当するものと解すべきであ(る)」


 次に、「著名な」略称等については、最高裁判決「国際自由学園事件」がベースになっています。

<国際自由学園事件>
 「人の名称等の略称が8号にいう「著名な略称」に該当するか否かを判断するについても,常に,問題とされた商標の指定商品又は指定役務の需要者のみを基準とすることは相当でなく,その略称が本人を指し示すものとして一般に受け入れられているか否かを基準として判断されるべきものということができる。」

 「人格権保護の規定」ゆえ、著名な略称か否かの判断は、「需要者のみを基準とすることは相当でなく」、「一般に受け入れられているか否かを基準」とすべきと判示されています。

 理解が難しい判例の一つですが、「自由学園」を含む複数の学校の内、「自由学園」と言えばどの学校を想起するのかについて、需要者(通学する子供や親)のみを対象とするのではなく、学校関係者を含めて判断し、その「著名性」を評価すべきといった趣旨になります。


 最後に、「他人の承諾」については、最高裁判決「カムホート事件」がベースになっています。

<カムホート事件>
 「出願時に8号本文に該当する商標について商標登録を受けるためには,査定時において8号括弧書の承諾があることを要するのであり,出願時に上記承諾があったとしても,査定時にこれを欠くときは,商標登録を受けることができないと解するのが相当である。」

 行政処分の一般原則である「査定(審決)時判断」が、さらっと書かれているだけですが、ポイントは、両時判断(4条3項)との関係です。


(商標登録を受けることができない商標)
第四条 
3 第一項第八号、第十号、第十五号、第十七号又は第十九号に該当する商標であつても、商標登録出願の時に当該各号に該当しないものについては、これらの規定は、適用しない。


 4条1項8号は両時判断の対象となっており、かっこ内(承諾)についても両時判断の対象となるのか否かの論点に対して、最高裁判例では、人格権保護と両時判断の趣旨の2つの観点から検討し、人格権保護の趣旨を尊重した結論を導いています。


 4条1項8号は、上記以外にも「他人」等の論点に対する判決(高裁等)があり、短い条文の割には本当に論点(判例)が多い条文だと言えますね。

 弁理士試験の論文対策としては、上記判決文に当たり、結論とともにその理由についてキーワードやキーフレーズの再現力を高めておくことが重要です。


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