商標法(判例)

【最判昭和36年06月27日】橘正宗事件

 商標が類似のものであるかどうかは、その商標を或る商品につき使用した場合に、商品の出所について誤認混同を生ずる虞があると認められるものであるかどうかということにより判定すべきものと解するのが相当である。

 そして、指定商品が類似のものであるかどうかは、原判示のように、商品自体が取引上誤認混同の虞があるかどうかにより判定すべきものではなく、それらの商品が通常同一営業主により製造又は販売されている等の事情により、それらの商品に同一又は類似の商標を使用するときは同一営業主の製造又は販売にかかる商品と誤認される虞がある認められる関係にある場合には、たとえ、商品自体が互に誤認混同を生ずる虞がないものであつても、それらの商標は商標法(大正一〇年法律九九号)二条九号にいう類似の商品の商品にあたると解するのが相当である。

【大阪地判昭和62年08月26日】BOSS事件

 そこで、右認定事実を前提として、被告がBOSS商標を附したTシヤツ等を電子楽器の購入者に配付している行為が本件商標権の侵害行為となるかどうかを考える。

 商標法上商標は商品の標識であるが(商標法二条一項参照)、ここにいう商品とは商品それ自体を指し商品の包装や商品に関する広告等は含まない(同法二条三項参照)。商標権者は登録商標を使用する権利を専有し、これを侵害する者に対し差止請求権及び損害賠償請求権を有するが、それは商品についてである(同法二五条参照)。したがつて、商標権者以外の者が正当な事由なくしてある物品に登録商標又は類似商標を使用している場合に、それが商標権の侵害行為となるか否かは、その物品が登録商標の指定商品と同一又は類似の商品であるか否かに関わり、もしその物品が登録商標の指定商品と同一又は類似ではない商品の包装物又は広告媒体等であるにすぎない場合には、商標権の侵害行為とはならない。そして、ある物品がそれ自体独立の商品であるかそれとも他の商品の包装物又は広告媒体等であるにすぎないか否かは、その物品がそれ自体交換価値を有し独立の商取引の目的物とされているものであるか否かによつて判定すべきものである。

【東京高判昭和58年06月16日】DCC事件

 かかる全国的に流通する日常使用の一般的商品について、商標法第四条第一項第一〇号が規定する「需要者の間に広く認識されている商標」といえるためには、それが未登録の商標でありながら、その使用事実にかんがみ、後に出願される商標を排除し、また、需要者における誤認混同のおそれがないものとして、保護を受けるものであること及び今日における商品流通の実態及び広告、宣伝媒体の現況などを考慮するとき、本件では、商標登録出願の時において、全国にわたる主要商圏の同種商品取扱業者の間に相当程度認識されているか、あるいは、狭くとも一県の単位にとどまらず、その隣接数県の相当範囲の地域にわたつて、少なくともその同種商品取扱業者の半ばに達する程度の層に認識されていることを要するものと解すべきである。

【最判平成15年02月27日】フレッドペリー事件

 3 商標権者以外の者が,我が国における商標権の指定商品と同一の商品につき,その登録商標と同一の商標を付したものを輸入する行為は,許諾を受けない限り,商標権を侵害する(商標法2条3項,25条)。

 しかし,【要旨1】そのような商品の輸入であっても,(1) 当該商標が外国における商標権者又は当該商標権者から使用許諾を受けた者により適法に付されたものであり,(2) 当該外国における商標権者と我が国の商標権者とが同一人であるか又は法律的若しくは経済的に同一人と同視し得るような関係があることにより,当該商標が我が国の登録商標と同一の出所を表示するものであって,(3) 我が国の商標権者が直接的に又は間接的に当該商品の品質管理を行い得る立場にあることから,当該商品と我が国の商標権者が登録商標を付した商品とが当該登録商標の保証する品質において実質的に差異がないと評価される場合には,いわゆる真正商品の並行輸入として,商標権侵害としての実質的違法性を欠くものと解するのが相当である。

 けだし,商標法は,「商標を保護することにより,商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り,もつて産業の発達に寄与し,あわせて需要者の利益を保護することを目的とする」ものであるところ(同法1条),上記各要件を満たすいわゆる真正商品の並行輸入は,商標の機能である出所表示機能及び品質保証機能を害することがなく,商標の使用をする者の業務上の信用及び需要者の利益を損なわず,実質的に違法性がないということができるからである。

【最判平成9年03月11日】小僧寿し事件

 1 商標法三八条二項は、商標権者は、故意又は過失により自己の商標権を侵害した者に対し、その登録商標の使用に対し通常受けるべき金銭の額に相当する額の金銭を、自己が受けた損害の額としてその賠償を請求することができる旨を規定する。右規定によれば、商標権者は、損害の発生について主張立証する必要はなく、権利侵害の事実と通常受けるべき金銭の額を主張立証すれば足りるものであるが、侵害者は、損害の発生があり得ないことを抗弁として主張立証して、損害賠償の責めを免れることができるものと解するのが相当である。けだし、商標法三八条二項は、同条一項とともに、不法行為に基づく損害賠償請求において損害に関する被害者の主張立証責任を軽減する趣旨の規定であって、損害の発生していないことが明らかな場合にまで侵害者に損害賠償義務があるとすることは、不法行為法の基本的枠組みを超えるものというほかなく、同条二項の解釈として採り得ないからである。

 商標権は、商標の出所識別機能を通じて商標権者の業務上の信用を保護するとともに、商品の流通秩序を維持することにより一般需要者の保護を図ることにその本質があり、特許権や実用新案権等のようにそれ自体が財産的価値を有するものではない。したがって、登録商標に類似する標章を第三者がその製造販売する商品につき商標として使用した場合であっても、当該登録商標に顧客吸引力が全く認められず、登録商標に類似する標章を使用することが第三者の商品の売上げに全く寄与していないことが明らかなときは、得べかりし利益としての実施料相当額の損害も生じていないというべきである。

【東京地判平成17年10月11日】ジェロヴィタール化粧品事件

 (ア) 本件商標1及び2は,その登録の日から5年以上が経過しているから,これらの各商標の登録が商標法4条1項10号に反し無効審判請求により無効とされるためには,被告の登録出願が不正競争の目的をもってされたことが必要である(同法47条)。しかしながら,原告は,同号違反を商標法39条の準用する特許法104条の3に基づくのではなく,権利濫用の抗弁としてこれを主張するものである。商標登録に無効理由が存在し,それが本来登録されるべきでないものであったのにもかかわらず,過誤により登録された場合には,仮に無効審判請求により無効とされることがなくても,そのような無効理由が存在することが明らかな商標権に基づく請求は,衡平に反し,権利の濫用として許されない(最高裁平成10年(オ)第364号同12年4月11日第三小法廷判決・民集第54巻4号1368頁参照)。よって,商標権の設定の登録の日から5年を経過した本件商標1及び2についても,不正競争の目的で商標登録を受けたか否かにかかわらず,商標法4条1項10号違反の無効理由の存否について判断することとする。

【最判平成3年04月23日】シェ・トア事件

 商標登録の不便用取消審判で審理の対象となるのは、その審判請求の登録前三年以内における登録商標の使用の事実の存否であるが、その審決取消訴訟においては、右事実の立証は事実審の口頭弁論終結時に至るまで許されるものと解するのが相当である。

 商標法五〇条二項本文は、商標登録の不便用取消審判の請求があった場合において、被請求人である商標権者が登録商標の使用の事実を証明しなければ、商標登録は取消しを免れない旨規定しているが、これは、登録商標の使用の事実をもって商標登録の取消しを免れるための要件とし、その存否の判断資料の収集につき商標権者にも責任の一端を分担させ、もって右審判における審判官の職権による証拠調べの負担を軽減させたものであり、商標権者が審決時において右使用の事実を証明したことをもって、右取消しを免れるための要件としたものではないと解されるから、右条項の規定をもってしても、前記判断を左右するものではない。

【東京地判平成06年02月24日】MAGAMP事件

 「被告は,本件商標と類似するイ号標章を,指定商品(肥料)と同一の商品である被告小分け品について,その出所表示機能及び品質表示機能等の自他識別機能を果たす態様で使用しているものと認められる。たとえ被告小分け品が原告販売にかかる本件商品(大袋)を開披してその内容物を詰め替えただけのものであったとしても,被告がイ号標章を被告小分け品に使用する行為はいずれも本件商標権を侵害するものといわざるを得ない。」

 「また,実質的にみても,本件商品のような化成肥料は,その組成,化学的性質及び製造方法に関する知識を有する原告や製造者以外の者がこれを小分けし詰め替え包装し直すことによって品質に変化を来すおそれが多分にあり,その際異物を混入することも容易であるから,被告の被告小分け品販売行為が許されるとすると,商標権者たる原告の信用を損い,ひいては需要者の利益をも害するおそれがあるので,被告の被告小分け品販売行為は本件商標権を侵害するものといわざるを得ない。」

 「当該商品が真正なものであるか否かを問わず,また,小分け等によって当該商品の品質に変化を来すおそれがあるか否かを問わず,商標権者が登録商標を付して適法に拡布した商品を,その流通の過程で商標権者の許諾を得ずに小分けし小袋に詰め替え再包装し,これを登録商標と同一又は類似の商標を使用して再度流通に置くことは,商標権者が適法に指定商品と結合された状態で転々流通に置いた登録商標を,その流通の中途で当該指定商品から故なく剥奪抹消することにほかならず,商標権者が登録商標を指定商品に独占的に使用する行為を妨げ,その商品標識としての機能を中途で抹殺するものであって,商品の品質と信用の維持向上に努める商標権者の利益を害し,ひいては商品の品質と販売者の利益もを害する結果を招来するおそれがあるから,当該商標権の侵害を構成するものといわなければならない。」

【最判平成2年07月20日】ポパイ・マフラー事件

 しかしながら、前記事実関係からすると、本件商標登録出願当時既に、連載漫画の主人公「ポパイ」は、一貫した性格を持つ架空の人物像として、広く大衆の人気を得て世界に知られており、「ポパイ」の人物像は、日本国内を含む全世界に定着していたものということができる。そして、漫画の主人公「ポパイ」が想像上の人物であって、「POPEYE」ないし「ポパイ」なる語は、右主人公以外の何ものをも意味しない点を併せ考えると、「ポパイ」の名称は、漫画に描かれた主人公として想起される人物像と不可分一体のものとして世人に親しまれてきたものというべきである。したがって、乙標章がそれのみで成り立っている「POPEYE」の文字からは、「ポパイ」の人物像を直ちに連想するというのが、現在においてはもちろん、本件商標登録出願当時においても一般の理解であったのであり、本件商標も、「ポパイ」の漫画の主人公の人物像の観念、称呼を生じさせる以外の何ものでもないといわなければならない。

 以上によれば、本件商標は右人物像の著名性を無償で利用しているものに外ならないというべきであり、客観的に公正な競業秩序を維持することが商標法の法目的の一つとなっていることに照らすと、被上告人が、「ポパイ」の漫画の著作権者の許諾を得て乙標章を付した商品を販売している者に対して本件商標権の侵害を主張するのは、客観的に公正な競業秩序を乱すものとして、正に権利の濫用というほかない。

【東京地判昭和63年09月16日】POS実践マニュアル事件

 しかしながら、商標法二五条本文は、「商標権者は、指定商品について登録商標の使用をする権利を専有する。」旨規定しているから、商標法三六条一項にいう商標権の侵害とは、右の登録商標の使用権の侵害を意味するものと解されるところ、他方、同法三条は、自己の業務に係る商品について使用をする商標については、(1)商品の普通名称、商品の産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、数量、形状、価格又は生産、加工若しくは使用の方法、ありふれた氏名又は名称などを普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標、(2)慣用商標、(3)きわめて簡単でかつありふれた標章のみからなる商標、(4)その他需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができない商標を除き、商標登録を受けることができる旨規定しており、右規定によれば、登録商標とは、このような要件に適合するものとして「商標登録を受けている商標」であつて、(同法二条二項)、本来、何人かの業務に係る商品であることを認識することができる商標、すなわち、出所表示機能を有する商標であることは明らかであり、したがつて、前記同法二五条本文にいう「登録商標の使用をする権利」とは、出所表示機能を有する商標の使用をする権利を意味するものであるから、出所表示機能を有しない商標の使用若しくは出所表示機能を有しない態様で表示されている商標の使用は、「登録商標の使用をする権利」には含まれないものと解するのが相当である。そうすると、このような商標の使用は、同法二五条本文に規定する登録商標の使用権を侵害するものということはできない。ま、このように解すべきことは、商標法一条が、「この法律は、商標を保護することにより、商標を使用する者の業務上の信用の維持を図り、もつて産業の発達に寄与し、あわせて需要者の利益を保護することを目的とする。」旨規定している趣旨にも合致するものである。

 右認定の事実によると、被告標章は、いずれも単に書籍の内容を示す題号として被告書籍に表示されているものであつて、出所表示機能を有しない態様で被告書籍に表示されているものというべきであるから、被告標章の使用は、前説示に照らし、本件商標権を侵害するものということはできない

アイテム: 1 - 10 / 26
1 | 2 | 3 >>